あなたの人生を輝かせるコミュニケーションの力
話を聴くということ

4.質問のスキル (5/10)

魔法の杖

疲れて後ろ向きになっている時は誰でも、ものごとが発展的に考えられないものです。何にか取り組もうとしても、できない理由ばかり思いつき、その場から一歩も動けないように思えることもありますね。

シンデレラのお話を覚えていますか?彼女は、継母と二人の義理のお姉さん達にメイドのようにこき使われながら、小鳥や小動物を友達に明るく立ち働いていました。ある日、お城から舞踏会のお知らせが届き、それにはこの国の娘は誰でも参加できると知って、彼女は胸を躍らせます。継母に自分も舞踏会に行かせてほしいとお願いすると、仕事を完璧に終えることができたら行ってもいい、というお許しが出ます。そこで彼女は、はりきって掃除、洗濯、炊事と次々に片付けていくのですが、継母とお姉さん達の意地悪な仕打ちにあって、とうとう仕事が終わらないまま夜になりました。お姉さんたちは、着飾って出かけていきます。やっと仕事が終わった時には舞踏会の始まる時間ですが、まだドレスが縫いあがっていません。もう間に合わないわ、と打ちひしがれる彼女のもとに現れたのが、魔法使いのおばあさんでした。おばあさんはシンデレラを見て、“ビビデバビデブ!”と呪文を唱えながら魔法の杖をさっと一振り、見る間にカボチャを豪華な馬車に、ねずみを白馬に、シンデレラのボロボロの服を美しいドレスに変えたのです。

魔法の杖とは、この魔法使いのおばあさんのもっている杖のことです。

人は、夢や希望、願望、言いたいことがあっても、自分の立場やおかれている状況、全体の環境、時間、お金、体力などの制約を思うと、言うことをためらいます。言ったところで叶うわけがない、立場上そんなことは言えない、所詮無理だ、という気持ちが、発言を抑えてしまいます。そんな時、もし、魔法の杖があったら、どうしたい?と、相手の制約を一時的に取り除いて差し上げると、急に目が輝いて、“実はね、本当はね”という本音をきくことができます。

これは、理屈はわかるけれども、仕事上でどう表現したものか、どういう時に使ったらいいのか、慣れるまで難しい、という声をきくことがあります。ところが、その方々のお話をきいていると、なんのことはない、もう、ずいぶん前から使い込んでいるのです。

たとえば、ある電気メーカーの営業マンは、学生時代のアルバイトで、秋葉原の量販店でオーディオを売ってトップセールスになったのだそうです。

最初からそんなに売れたの?ときくと、違う、ある時から、自分なりに考えて、このように言ってみたら、急に売れ出した、というのです。

「買いに来るお客さんは、若くてあまり予算がないんです。でも、見ると、やっぱりいいものはいいんでほしくなってしまう。けれども、高い。そこでこんなふうに言うんです。“予算のことは、最初はちょっと置いといて、どんなものがほしい?こういうの?ああいうの?こういうのだったら、予算〇〇円でここまで揃うよ。あとこれつけるとプラス△△円。××円なら、ここまでセットになる。”そうすると、たいがい、買ってくれるんです、それも、割と高いセットを。」

彼の言葉の中に、魔法の杖がありますね。それを指摘すると、彼は、目から鱗を落としていました。たった今、“魔法の杖なんて、どう使ったらいいかわからない”と質問したところだったのですから。“予算のことは、最初はちょっと置いといて”と、お金の制約から解放してあげて、本当のところ何がほしいのかを明確にしたところ、予想外にも、当初の予算以上のものを買う方が多かったというのです。

ある大手のシステム・エンジニアの方は、こんな風に使っていらっしゃいました。お客さまのところへヒアリングに行くと、3ヶ月であるシステムを完成しろ、と無理な社長命令が下り、担当者は困り果ててミーティングも黙りがちだったそうです。社長命令なので従わないわけにはいかないのだけれども、とても3ヶ月でできるシステムではないということが担当者にはよくわかるからです。そこで、そのSEは、次のように問い掛けました。「それでは、御社の状況を把握させていただくためにも、3ヶ月にとらわれず、長い目で見た場合、どのようなシステムが御社に必要か、おきかせ願えますか?」これに対しては、担当者も日頃の考えを雄弁に語り出したそうです。ここから始まり、必要な要件を拾い出し、その中で優先順位をつけて、3ヶ月でできること、2次開発にまわすことを明確にした上で社長に提言する、というところまでこぎつけたそうです。彼も、そうとは知らずに、上手に魔法の杖を使っていたのですね。

先日、私はあるハイテック・メーカーの営業部門のキックオフ・ミーティングで、魔法の杖をこんな風に使いました。

数百名の社員の皆さんが集まっている会場の壇上に数名のお客さまに登場していただき、そのメーカーの営業担当者に期待することを自由にお話ししていただく、というイベントのファシリテーターをつとめた時です。登場前の大変緊張していらっしゃるお客さまに、“どうぞご自由に、ご意見や、ご希望をおっしゃって下さいね。”などと言っても、お互い長いお付き合いでいろいろなことがあったはずです。いくらお客さまとはいえ、忌憚なくなんでも言えるものでもありません。また、その会社の内部の状況なども知っていると、営業担当者にそれを言うのは酷だと感じて遠慮したり、言わないで置こうという配慮も生じてくるものです。

そこで、登場直前に、こう申し上げました。“今日は、皆さんに魔法の杖をお渡しします。これは、あのシンデレラにでてくる魔法使いのおばあさんの杖です。ですから、皆さん、今日だけは、今までのお付き合い、お互いの現状、予算のことなどから解放されて、自由に何でもお話しになっていいのですよ。”

そして、舞台に登場していただきました。そこで、もう一回使ったのです。それは、会場を満たす数百名の社員の方々に対してです。“今、登場する前に、壇上のお客さまに魔法の杖をお渡ししました。ですから、お客さまは、今日だけはいろいろなことから自由になって、本当のお気持ちをお話し下さいます。楽しみですね”と。そうして初めてお客さまは、守られた中で、いつもよりは幾分自由にご発言ができたのではないかと思います。

こんなふうにいろいろな場面で、それにふさわしい表現で使うと、面白い効果が引き出される"魔法の杖"。皆さんでしたら、どんな魔法をかけますか?
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