あなたの人生を輝かせるコミュニケーションの力
A New way of Improving & Caring for Oneself


                              室 伏 順 子
オプション・メニュー              ソフィア ヒューマン キャピタル(株) 代表取締役社長

 §43.Noという場合


 相手の力になりたいのはやまやまでも、どうしても、応じられないことがあります。“営業は、Noとは言えないんだよ!”とおっしゃる方もいらっしゃいますが、やはり遵守しなければならない法やルールはあります。だからと言って、“申し訳ありませんが、それは致しかねます”だけで終わってしまっては、言われた相手は途方に暮れてしまいますね。そんな時、いくらかでもコミュニケーションの工夫で、ご納得いただくことはできないでしょうか?

 車がないと生活できない私は、よくディーラーの方と交渉ごとが生じます。ここでは、ディーラーがNoと言わざるを得なかった二つの具体例を挙げて、どうして私が納得したかをお話ししましょう。

 何年か前の梅雨の頃でした。山道でUターンをしようとして、うっそうと茂った背の高い草の中に捨てられていた農作機にぶつかってしまい、ボディーの修理をお願いすることになりました。問い合わせると、明日引き取りに来てくれて、10日後に届けてくれるというのです。

 私は、この梅雨の最中に10日も車がないのはさすがに困る、10日というのは修理工場のスケジュールが混んでいて順番待ちをするに違いない。長いお付き合いなのだから、優先順位をあげてもらえないだろうか、などと考えながら、“なんとか5,6日で完成させていただけませんか?”とお願いしました。

 すると、ディーラーは次のように対応しました。「足元が悪い季節に10日も車がないというのは、ご不便でお困りのことと思う。ご迷惑をかけて申し訳ない。確かに、日に夜をついで作業をすれば日数を短縮することは可能だ。けれどもこの日数は、塗装をきれいに仕上げるために、最初の塗装が完全に乾くのを待って2度目の塗装をし、それがまた完全に乾いてから3度目の塗装をする、という工程でかかってくるものだ。梅雨で塗装が乾きにくいことを考えると、いい結果を得るためには、この日数が必要になる。もし、晴天が続き乾燥が早まれば、一日でも早く納車できるよう努力する」という説明でした。これをきいて、私はひどく納得して、10日でお願いすることになりました。

 また、別のお話です。何かのメンテナンスで、車をディーラーにもっていくことになりました。メンテナンス中に代車をお願いしていましたが、当日見てみると、それは大型のステーションワゴンで、私には運転できそうにもありません。普通の車をお願いすると、どうしても手配できないというのです。それは困った、とはいえ、どうしようもないだろう、けれどもここからどうやって帰ったものかと思案していると、「期待に添えなくて申し訳ない。急に車がないことになり、さぞお困りだろう、すべての車種を用意できれば一番よいのだけれども、そのコストがお客さまに反映されてはかえってご迷惑なので、今はそうしていない。代車を用意できないかわりに、せめて帰りの足にタクシーを使ってほしい」と、タクシー券を下さいました。それで、どこか救われる気持ちになって、納得したのでした。

 では、この二つのケースに含まれる要素を検討してみましょう。

 @まず、Noと言われて困ったり、がっかりしているこちら
  の“状況”と“感情”を口に出して伝えています。
  最初のケースでは、“足元が悪い季節に10日も車がないと
  いうのは”が状況、“ご不便でお困りのことと思う”が
  感情です。二番目のケースでは、“急に車がないことに
  なり”が状況、“さぞお困りだろう”が感情です。

 A次に、Noという理由について説明し、それが自分達の
  一方的な都合ではなく、そうすることが、こちらにメ
  リットがあると伝えています。
  最初のケースでは、塗装を美しく仕上げるため、がそ
  れです。二番目のケースでは、コストを低減すること
  で、こちらが支払うメンテナンスの料金を少しでも安
  くするため、がそれです。

 B最後に、Noではあるけれども、これならできる、とい
  う代替案を加えています。最初のケースでは、“もし、
  晴天が続き、乾燥が早まれば、一日でも早く納車でき
  るよう努力する”がそれです。二番目のケースでは、
  “せめて帰りの足にタクシーを使ってほしい”と、タ
  クシー券を用意したことです。

 こういった一見些細な気配りやコミュニケーションが、困った状態にある時に、どれほど助けるになるかは、このケースを体験した私が実感しています。二番目のケースで、数日間代車がないことになる不都合の大きさにくらべて、帰りのタクシー券などは、ほんの小さな穴埋めにすぎないといえばその通りですが、その場の心理としては、ディーラーも、限られた中で精一杯、こちらを気遣ってくれているという思いが伝わり、納得感を引き起こすのです。

 Noとだけ言ってもすむところを、さらに相手の立場にたってクリエイティブに考える、そうすると、自分にできるプラスαがでてくるのです。そしてそれを受けて、Noと言われた相手も、この人に対応してもらってよかったと思う、その感動がここで創りだされた新たな価値なのです。不思議でしょう、この二つのケースは、どちらもNoと言われたのに、どこか嬉しくて、何年経っても忘れないのですから。




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■ 目 次 ■
プロローグ (2001.12.11)
第1章 自分を知る、自分を探す
T.人とのかかわりのなかで、自分をみつめなおす
 §1.コミュニケーションのタイプ (2001.12.27)
 §2.ソーシャル・スタイル (2002.01.08)
U.2つの切り口
 §3.思考表現度とは (2002.01.15)
 §4.思考表現度の高い方の特徴 (2002.01.22)
 §5.思考表現度の低い方の特徴 (2002.01.29)
 §6.感情表現度とは (2002.02.05)
 §7.感情表現度の高い方の特徴 (2002.02.13)
 §8.感情表現度の低い方の特徴 (2002.02.19)
V.4つのスタイル
 §9.人から見た私 (2002.02.26)
 §10. アナリティカル/思考派 の特徴 (2002.03.04)
 §11.ドライバー/行動派の特徴 (2002.03.12)
 §12.エミアブル/協調派の特徴 (2002.04.04)
 §13.エクスプレッシブ/感覚派の特徴 (2002.04.09)
 §14.自分が知っている私、人から見た私 (2002.04.17)
W.あなたを活かす
 §15.ソーシャル・スタイルの活かし方 (2002.04.23)
 §16.アナリティカル/思考派
                あなたの強みと弱み
(2002.05.07)
 §17.ドライバー/行動派の
                あなたの強みと弱み
(2002.05.13)
 §18.エミアブル/協調派の
                あなたの強みと弱み
(2002.05.27)
 §19.エクスプレッシブ/感覚派の
                あなたの強みと弱み
(2002.06.04)
 §20.スタイルの活かし方 (2002.06.14)
 §21.あなたの活かし方 (2002.06.20)
 §22.人との違いを知ることで見えてくるもの (2002.07.05)
 §23.ストレスなく相手と合わせるコツ (2002.07.16)
第2章 自分を育てる
T.相手の立場にたつということ
 §24.コミュニケーションの流れ (2002.07.24)
 §25.話のできる関係を作る (2002.07.30)
 §26.相手を知る (2002.08.09)
 §27.それに応える (2002.08.27)
 §28.合意する (2002.09.11)
U.話を聴くということ
 §29.聴くことの威力 (2002.10.07)
 §30.聴く力とは (2002.10.16)
 §31.対人過敏性 (2002.10.29)
 §32.質問のスキル 〜1/10〜 (2002.11.07)
   1.事実と意見 〜2/10〜 (2002.11.13)
   2.直接と間接 〜3/10〜 (2002.11.19)
   3.気にっていることと
            気に入らないこと
〜4/10〜 (2002.11.27)
   4.魔法の杖 〜5/10〜 (2002.12.06)
   5.問い返すということ 〜6/10〜 (2002.12.13)
   6.わからない時は? 〜7/10〜 (2002.12.19)
   7.相手の答えを
          
コントロールすること
〜8/10〜 (2002.12.26)
   8.5W1Hが教えてくれること 〜9/10〜 (2003.01.08)
   9.質問を受けるということ 〜10/10〜 (2003.01.16)
 §33.傾聴のスキル (2003.01.24)
 §34.情報マイニング (2003.01.30)
V.話すということ
 §35.話す目的 (2003.02.06)
 §36.準備すること (2003.02.14)
 §37.話の組み立て
   1.序論 〜1/3〜 (2003.02.21)
   2.本論 〜2/3〜 (2003.03.05)
   3.結論 〜3/3〜 (2003.03.14)
 §38.説明のスキル (2003.03.25)
 §39.話し方 (2003.04.01)
 §40.立ち居振舞い (2003.04.11)
W.納得していただくということ
 §41.創造的問題解決法 (2003.04.18)
 §42.交渉していく場合 (2003.04.25)
 §43.Noという場合 (2003.05.09)
X.喜んでいただくということ
 §44.自分を活かす (2003.05.16)
 §45.顧客満足 (2003.05.23)
 §46.ホスピタリティー (2003.06.05)
Y.自分を育てるということ
 §47.自分を育てるということ (2003.06.20)
第3章 新しい出発
T.セルフ・リーダーシップ
 §48.新しいリーダシップ (2003.08.29)
 §49.セルフ・リーダーシップ・スキル (2003.09.05)
U.セルフ・コントロール
 §50.思考・感情・言動の関係 (2003.09.12)
 §51.思考の働き (2003.09.19)
 §52.思考を変える、自分を変える (2003.09.26)
V.今を生きる
 §53.過去・現在・未来 (2003.10.03)
 §54.過去を生きる、今を生きる (2003.10.14)
W.関係性から離れる
 §55.関係性の幻想 (2004.01.07)
 §56.個を生きる (2004.01.26)
 §57.知恵を取り戻す (2005.03.07)
 §58.知るということ (2005.03.07)
X.夢を育てる
 §59.必要なだけの努力 (2005.03.07)
 §60.あなたを満たす10のメニュー (2005.03.07)
 §61.あなたを満たすと起ること (2005.03.07)
Y.自分自身になる
 §62.価値の転換 (2005.03.07)
 §63.自分自身になる (2005.03.07)

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